耕地にあらかじめ多くの種子をまいておいて,幼植物の期間に一部を除去して適正な密度にすること。作物が生産の目的に合った生育をするように,各個体に一定の生育空間を与えるために行う。多くの作物の場合,間引きを行わなくても面積当りの総生産重量は大きくは変わらないが,各個体の重量が小さくかつ変異が大きくなるので,ハクサイ,ダイコン,ニンジンなどの野菜類では商品になるものの割合が極端に低下するし,テンサイでは収穫機が使えなくなったりするため,間引きは必須の作業となっている。初めから少量の播種(はしゆ)を行わないで,多量にまいて間引かなければならない理由は,(1)種子が小さいため必要数だけを指や機械で取り出すことができない,(2)種子の発芽率は100%でないので,1株に1粒ずつまくと欠株ができ,土壌条件が悪いときには,1株に数粒ずつまとめてまいたほうが地表に芽を出しやすい,(3)間引きの際に不良個体を淘汰できる,などである。野菜類などでは生育するにしたがって2~3回の間引きを行い,順次1株の個体数を減らしていく。間引きの手作業は単純で筋力もあまり必要としないが,1株ずつ処置しなければならないため,きわめて能率が低く,幼植物を扱うので,作業姿勢が前かがみで悪い点が問題となる。省力化にはホー,カルチベーター,ビート・シンナーによる荒間引きが行われるが,仕上げは人力によっている。完全な機械化のために精密点播(てんぱん)機,選択式間引機の開発研究が行われているが,実用化には至っていない。
執筆者:春原 亘
本来は菜,大根など散播する作物の苗を,良好なものを残してその他を引き抜き,良苗の生育を助ける作業を〈間引き〉と呼んだ。おろぬく,うろぬくなどともいう。転じて人間の出生に当たり,虚弱,貧困などの理由で育てえないと考えた赤子を死亡させることにも,この語を用いた。この語はいわばそれについての公称であって,例えば奥羽地方では,おしかえす,もどす,ぶっかえすなど,生まれ出るものを生前の世界,いわば霊界に逆行させる意味の言葉が使われ,関東・中部では薪拾いにやった,魚捕りに行ったなど,葬地や処分法を意味する語が多く用いられた。中国・九州地方もこれらに類するが,関西にはこれに当たる言葉はほとんど知られず,堕胎処理が多かったのかと考えられる。また,江戸時代における人口増加の停滞の主要原因をこれに帰する者もあるが,人口の増加しなかった理由は飢饉と流行病によって十分に説明でき,古来子どもを子宝として喜び,安産や生育祈願のための民俗行事(育児)がひろく盛んに行われてきた事実を考えれば,間引きが近世まで一般常習となっていたという通説には疑問がある。
→堕胎
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
胎児、嬰(えい)児を人為的に殺す人口制限の手段を、農作物などの間引きになぞらえていう。よばい、強姦(ごうかん)、不義密通など婚外婚によるもののほか、貧困によるものが多かった。とくに江戸時代中期以降、貢租の増徴や飢饉(ききん)などで農民生活が苦しくなり、口減らしのための間引きが少なくなかった。領主は労働力の減少、田畑の荒廃を恐れて、しばしば禁止令や赤子養育仕法(あかごよういくしほう)などを出して防止に努めたが、明治時代まで続いた。当時は妊娠以前に産児を調節する知識や技術が乏しかったから、妊娠または分娩(ぶんべん)後に間引いた。妊娠中の手段としては、もみおろし(腹をもむ)や、ほおずきの根を差し入れて流産を促す(掻爬(そうは))などがあり、しばしば母体は危険にさらされた。分娩後の間引きは残酷で、膝(ひざ)やふとんで窒息させたり、臼(うす)ごろといって石臼で圧殺したり、紙はりといってぬらした紙を顔にはって窒息させたりした。たいてい取上げ婆(ばば)(免許制以前の産婆)が処理した。霊魂信仰の考え方では、生児は成長に応じて次々に霊魂を付与し人間らしくなっていくので、胎児、嬰児、幼児の人権は重視されていなかった。妊婦、産婦の心情はいまも昔も変わりがないが、社会的な人権意識が足りなかった。間引いた子は自宅の床下や縁の下に埋める例もあり、生まれ変わることを期待する気持ちがあった。間引きのことを「返す」「戻す」などというのはそのためであり、桟俵(さんだわら)にのせて川に流す例もある。
[井之口章次]
作物を密に播種(はしゅ)した場合に、芽生えてから一部を引き抜いて除き、個体間あるいは個体群の株の間にその後の生育に十分な間隔を与えること。生育初期は病虫害や環境障害に弱いので、あらかじめ多めに播種して、しだいに不良個体を除いたり、また種子では判別困難な遺伝的な劣悪形質の個体や、異品種の混ざりを芽生えてから除去する目的もある。
間引きは作物の種類によって1~3回行う。集約農業では手作業によってていねいに行うが、大規模農業ではトラクターにつけた間引き機(シンナー)を用いて、一定間隔で地面とともに幼植物を削り取る方法で間引きする。ダイコンや葉菜類などでは、間引いたものも食用にされる。「穎割(かいわ)れ大根」は本来はダイコンの第1回の間引きをしたものである。果樹では開花後に枝あるいは一花房につく幼果を間引き摘果し、果実の大きさや形をそろえ、品質の向上を図る。最近は化学薬品の摘果剤も開発され利用されている。
[星川清親]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
生まれたばかりの子を窒息もしくは圧死させ,子供の数を人為的に調整すること。モドス,オッカエスともよび,異界からの授かりものである生児をそこへ再び返すという心意が背景にあった。江戸時代には間引きの非人間性をさとす印刷物や絵馬が広く流布した。間引きの原因を貧困に求める従来の見解に対して,人口増加を未然におさえて一定の生活水準を維持するための予防的制限であったとする見解もある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…直まき法では間引作業がたいせつとなる。1~3回に分けて間引きし発育のそろったものを残すようにする。種まきには,種子を一面に広げてまき,土をふるい掛ける〈ばらまき〉,まき筋をつけて種子をひねり落とすようにまく〈すじまき〉,一定の間隔に数粒ずつまく〈点まき〉とがある。…
…本来は菜,大根など散播する作物の苗を,良好なものを残してその他を引き抜き,良苗の生育を助ける作業を〈間引き〉と呼んだ。おろぬく,うろぬくなどともいう。…
…また帯祝はやがて生まれる子どものための第1回めの共食の機会で,生児の生存権を社会的に認めるという意味があった。間引きが多く行われた近世でも,帯祝のすんだ子は育てねばならなかった。帯の長さはまちまちで,手拭いの長さのものもあり,帯に一つの呪力を認めていたと考えられる。…
…妊娠中絶【若杉 長英】
[社会的要因]
堕胎は家族の食料取得量が少ない社会,あるいは乳児に与えることのできる食料が母乳以外にはないような社会に多い。そのような社会では,堕胎や間引きは現在生きている人の生存を守るために行われると意識され,避妊,堕胎,間引きの間にそれほど大きな意味の違いを認めていない。また未婚の女性や未亡人の妊娠・出産に対して厳しいサンクション(制裁)がみられる社会でも,出産を逃れるためにしばしば堕胎が行われる。…
…旧中国でみられた新生児殺害。水盆などで溺死させ,とくに女児が多かったための呼称。溺女の語は比較的新しく,宋代ごろには薅子(こうし)(まびき),不挙子などと呼ばれた。新生の女児殺害は先秦の《韓非子(かんぴし)》から知られ,主として経済的理由によって,為政者,知識人の禁令や論議にもかかわらず,江南を中心に広範に行われた。19世紀以後の西ヨーロッパ人の報告では,2割から4割に達するといわれ,女性の人口比率にも影響している。…
※「間引き」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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